便秘の医学・その治療と予防

便秘は、家族や友人にも言えない症状です。便秘は、特に女性や高齢者に多くみられる症状ですが、便秘のことよく知らない人が多いです。そこで、さまざまな状況で生じる便秘についてお話します。

甲状腺機能低下症・橋本病と便秘

700万人もの人が患っているとされる甲状腺機能低下症。甲状腺機能低下症の85%以上は女性で、甲状腺機能低下症は女性の病気であるといえます。甲状腺機能低下症はさまざまな原因で発症しますが、特に、橋本病とよばれる自己免疫疾患によって発症するケースが多いといわれています。橋本病は、慢性甲状腺炎とよばれ、40代から50代の女性に多くみられ、その年齢の女性の10%から20%が橋本病であるとされています。甲状腺機能低下症は、橋本病以外にも原因がみられ、バセドウ病の治療後においても発症することがあります。甲状腺の機能が低下しますと、全身の代謝が低下するために、さまざまな症状が現れます。消化管での代謝が低下しますと、蠕動運動などの消化管運動が低下し、その結果、便秘が引き起こされます。消化管運動の低下により、大腸内の便の移動速度が低下してしまい、そのため便の水分吸収が促進され、硬い便となって便秘が生じます。甲状腺機能低下症あるいは橋本病で生じる便秘は、慢性化しやすい特徴があり、積極的な便秘改善対策が求められます。甲状腺機能低下症や橋本病に伴う便秘対策に刺激性下剤である便秘薬は有効ではなく、天然成分の水溶性食物繊維であるイヌリン食物繊維の摂取が最も有効であるとされています。甲状腺機能低下症の全身的なさまざまな症状は、更年期障害などの他の病気と間違われやすく、自らが甲状腺機能低下症であることを知らない女性も多いです。ここでは、甲状腺機能低下症・橋本病に伴う便秘についてお話します。 

甲状腺とは

 甲状腺は、喉仏の下方にある重さ約15グラム程度の小さな臓器ですが、甲状腺ホルモンを分泌するという重要な働きがあります。甲状腺ホルモンには、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)とよばれる2種類のホルモンがあります。甲状腺ホルモンは、サイログロブリンという糖たんぱく質が、血液中のヨードと結合し、その後、分解されてアミノ酸チロシンが2つ縮合し、分子内がヨード化された化学構造を有しています。原発事故で甲状腺放射能が蓄積されるのは、放射性ヨードが血液を介して、サイログロブリン甲状腺ホルモンに取り込まれるためです。甲状腺ホルモンは、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、甲状腺から血液中に分泌され、全身の臓器や組織に広がります。全身の臓器や組織に分布した甲状腺ホルモンは、細胞の呼吸やエネルギーの産生を高め、各臓器や組織の新陳代謝に重要な働きを有しています。ですので、甲状腺ホルモンの分泌が過剰であっても、あるいは不足しても、さまざまな全身的症状が現れます。 

甲状腺の病気

  甲状腺の病気は、大きく分けて2種類あります。1つは、甲状腺ホルモンの分泌機能に異常が生じる場合です。このホルモン分泌異常は、さらに2種類に分かれます。甲状腺ホルモンの分泌が低下する甲状腺機能低下症と、逆に、甲状腺ホルモンの分泌が増大する甲状腺機能亢進症です。2つ目は、甲状腺がんなどの腫瘍性疾患です。

  甲状腺機能低下症については次のセクションで詳しくご説明いたします。甲状腺機能亢進症は、別名バセドウ病ともいわれます。甲状腺の働きが活発な状態となり、甲状腺から甲状腺ホルモンが多量に分泌し過ぎて、全身の細胞における新陳代謝が異常に高まる病気です。甲状腺ホルモンの分泌が高まるために、血液中の甲状腺ホルモンは高値を示します。バセドウ病は、20代から40代で発症することが多く、その80%以上は女性でみられる病気です。女性の100人に1人はバセドウ病であるといわれていますので、バセドウ病も決して稀な病気ではないということになります。甲状腺のある首の回りが太く腫れあがります。

 甲状腺腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍とがあります。いずれも、首にしこりがあったり、首が腫れて大きくなったりします。痛みをあまり感じないために、首の腫れを他人が発見する場合も多いです。このような外見的徴候はバセドウ病と同じです。甲状腺がんの80%以上は、分化癌とよばれるがんであり、予後は比較的良いとされています。甲状腺腫瘍が、なぜ発症するのかについては、ほとんど解明されていません。しかし、少なくとも、放射性ヨードは、甲状腺がんを引き起こす原因であることは明らかとなっています。原発事故で大量の放射性ヨードが大気中に拡散しましたが、今後、この事故によってもっとも留意すべきことは、特に、子どもを中心とした甲状腺がんの発症を追跡することにあるといわれています。ロシアのチェルノブイリ原発事故では、何十年も経ったのちに、甲状腺がんの増加が認められています。

甲状腺機能低下症

  甲状腺の病気の中で、最も患者数が多いといわれているのが甲状腺機能低下症です。バセドウ病などの甲状腺機能亢進症とは逆に、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが減少するために発症する病気です。甲状腺ホルモンの分泌が低下しますと、全身の代謝が低下あるいは抑制され、体のすべての機能が低下します。精神神経機能が低下しますと、眠気、抑うつ、全身倦怠感、無気力感、疲労感、食欲低下、冷え性、記憶障害などが生じます。全身のむくみも生じます。普通のむくみとは異なり、指で押してもへこみが残らないむくみとなります。皮膚は乾燥し、毛が抜けたりします。喉の声帯がむくみ声がかれたりします。いびきをかくことも多くなります。また、心臓機能の低下により、脈が遅くなったり、食欲がないのにむくみで体重が増えたりします。甲状腺機能低下症は、月経過多や無月経といった生理不順の原因にもなります。

 甲状腺機能低下症は、神経組織、心臓、皮膚、卵巣などの生殖器の他に、小腸や大腸などの消化管に対しても影響を及ぼします。甲状腺ホルモンの分泌が低下しますと、消化管の代謝が低下します。消化管は、寝ている間においても、絶えず動いています。これを消化管の蠕動運動といいます。運動を行うためには、代謝によって生じるエネルギーが必要となりますが、甲状腺機能低下症では、このエネルギーを生む代謝が抑制されるために、結果として、消化管の蠕動運動が抑制されることとなります。消化管の蠕動運動は、食べた物を肛門まで運ぶ重要な働きがあり、これによって、排便が行われることになります。しかし、甲状腺機能低下症で蠕動運動が抑制されますと、食べた物が大腸などの消化管の中に滞留してしまい、そのため便秘が引き起こされることとなります。大腸内の便の移動速度が低下することにより、便の水分が過剰に吸収され、硬い便となって排便が困難となり便秘が引き起こされるのです。甲状腺機能低下症では、このようなメカニズムで便秘が生じるのです。このような甲状腺機能低下症も、甲状腺機能亢進症と同様に、そのほとんどが20代から40代の女性に多くみられます。

甲状腺機能低下症の原因

  甲状腺機能低下症の原因として最も多いのが、橋本病あるいは慢性甲状腺炎とよばれる原発性の自己免疫疾患によるものです。次に多い原因は、甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の放射性ヨード治療を行った後に生じるものです。バセドウ病は、甲状腺機能が亢進した状態ですので、その治療は、亢進した甲状腺の機能を抑制することになります。治療法には、放射性ヨウ素治療、薬物療法甲状腺摘出外科治療などがありますが、亢進した機能の抑制が過剰になりますと、反って、甲状腺機能低下症が発症してしまうことがあります。また、慢性的なヨウ素の過剰摂取は、甲状腺機能低下症の発症原因となることがよく知られています。ヨウ素は、海藻類、特にヒジキなどに多量に含まれますが、健康のためという理由で過剰摂取しますと、反って、甲状腺機能低下症を誘発させる原因となりますので注意が必要です。また、原発事故の時、非放射性のヨウ素を配布することがニュースとなりましたが、これもまた、反復した非放射性ヨウ素の摂取は、甲状腺機能低下症を発症させる原因となります。

橋本病

  橋本病は、自己免疫疾患の一種で、慢性甲状腺炎ともよばれています。私たちの体は、自分のものか他人のものか、あるいは細菌やウイルスのように体外の異物であるかを認識する能力を備えています。外部から他人の血液や細菌等が侵入してきた場合、これを排除するために防衛手段として抗体とよばれる糖たんぱく質が生成され、体外異物の除去を行います。また、白血球の一部は、直接、体外異物を攻撃し、体内への侵入を防ぎます。通常、これらの抗体や白血球は、自分のもの(自己の蛋白質、細胞、組織、臓器など)は、異物として認識しません。ところが、「自分のもの」であるのにも係らず、それらを異物として認識してしまい、自分の抗体で自分の細胞、組織や臓器を攻撃してしまうことがあります。自らの白血球によっても、自らの細胞や組織を攻撃する場合もあります。これらを自己免疫反応といい、これによって生じる病気を自己免疫疾患といいます。橋本病においても、甲状腺という臓器に対する自己抗体が作られたり、あるいは自己の白血球の一部が、自己の甲状腺を攻撃する自己免疫疾患の一種となります。橋本病では、甲状腺組織の細胞が破壊され、それにより甲状腺ホルモンの分泌が低下し、甲状腺機能低下症が発症するのです。

 橋本病あるいは甲状腺機能低下症のいずれにおいても、その症状の現れ方が、更年期障害などの症状に類似しているために、余程、首が大きく腫れない限り、多くの女性は、それらの病気を放置しているとの報告があります。700万人中500万人の方は、自分が甲状腺機能低下症あるいは橋本病であることを認知していないと指摘する報告もあります。甲状腺機能低下症あるいは橋本病は、簡単な血液検査で診断することができますので、病院にて検診を受けることがとても大切です。

 例えば、甲状腺機能低下症あるいは橋本病の血液診断検査として、遊離サイロキシン(FT4検査、甲状腺ホルモン検査のひとつで、一般に、この値が高ければ甲状腺機能亢進症、低ければ甲状腺機能低下症と診断されます)、遊離トリヨードサイロニン(FT3検査、甲状腺ホルモン検査のひとつで、この値が高ければ甲状腺機能亢進症、低ければ甲状腺機能低下症と診断されます)、甲状腺刺激ホルモン(TSH検査、脳下垂体から分泌される甲状腺を刺激するホルモンで、血液中の甲状腺ホルモンが高値になると分泌が低下し、血液中の甲状腺ホルモンが低値になると分泌が亢進されます。血液中の甲状腺刺激ホルモンを測定することによって、間接的に甲状腺の機能を判定することができます)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体、甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体検査です。橋本病・慢性甲状腺炎バセドウ病で高値となります)、抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体、甲状腺特有のたんぱく質であるサイログロブリンに対する抗体検査です。橋本病・慢性甲状腺炎バセドウ病で高値となります)、TSHレセプター抗体(TRAb、甲状腺膜細胞上のTSH受容体に対する自己抗体です。バセドウ病の原因物質で、その病気の病勢を診断します)、サイログロブリン(Tg、甲状腺腫瘍マーカーで、良性腫瘍でも悪性腫瘍でも高値を示します)、カルシトニン(カルシトニンは、主に甲状腺で産生されるホルモンの一種であり、甲状腺がんなどの腫瘍マーカーとして測定されます)、などがあります。これらの血液臨床検査を適宜組み合わせて、甲状腺機能低下症、橋本病、あるいは甲状腺機能亢進症であるバセドウ病甲状腺腫瘍の診断が行われます。 

甲状腺機能低下症・橋本病に伴う便秘

  甲状腺機能低下症や橋本病では、その多くの患者に便秘がみられます。その便秘の特徴としては、慢性的であること、また硬い便による排便困難となる便秘です。

 甲状腺機能低下症や橋本病で発症する便秘の解消に、コーラックなどの刺激性下剤である便秘薬や下剤の使用は効果的ではありません。便秘薬や下剤は、大腸の粘膜を刺激し、これによって大腸組織が収縮することによって排便が促進されます。しかし、甲状腺機能低下症や橋本病では、大腸組織のエネルギー代謝が低下しているために、大腸組織の収縮力が低下した状態となっているために、刺激性便秘薬などで大腸粘膜を刺激しても、大腸の収縮運動能は起こりにくく、排便が促進されないこととなります。また、刺激性便秘薬の反復使用は、習慣性となって、その効果が減少します。非刺激性の便秘薬である酸化マグネシウムの処方も、甲状腺機能低下症や橋本病の便秘改善に有用ではございません。酸化マグネシウムは、便の量が増えることによって排便を促す便秘薬です。しかし、酸化マグネシウムには、硬くなった便を軟らかくする効果はなく、単なる「便のかさまし」程度の効果しかありませんので、大腸の運動機能が低下した甲状腺機能低下症あるいは橋本病で生じる便秘には効果が期待できません。むしろ、大腸運動機能が低下した甲状腺機能低下症や橋本病では、服用した酸化マグネシウムが大腸内に留まり、腸閉塞や腸捻転などの重大な副作用が生じる可能性があります。さらに、甲状腺機能低下症あるいは橋本病の患者さんが、便秘目的で酸化マグネシウムを服用しますと、服用した酸化マグネシウムが大腸内に長時間滞留することとなり、その結果、酸化マグネシウムを構成するマグネシウム成分が大腸から吸収されてしまい、重篤な高マグネシウム血症が発現する確率が高まります。厚生労働省は、酸化マグネシウムの服用による高マグネシウム血症の発現とその警告を製薬会社に伝達しています。なぜならば、非刺激性便秘薬として使用されている酸化マグネシウムを服用した便秘患者数例に死亡の報告があったためです。

 それでは、甲状腺機能低下症あるいは橋本病で生じる便対対策は、どのようにしたらよいのでしょうか。甲状腺機能低下症あるいは橋本病の便秘の特徴は、「慢性便秘」と「硬い便」の2つです。その2つに対する対策が便秘対策として求められることとなります。その2つを同時に解消させることができのは、天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維です。イヌリン水溶性食物繊維は、消化管の蠕動運動が抑制された甲状腺機能低下症あるいは橋本病で生じる便秘にとても有効な天然素材となります。イヌリン水溶性食物繊維は、ゴボウ、アスパラ、タマネギ、ニンニクなどの根菜類に含まれる食物性の食物繊維です。この水溶性食物繊維は、大腸内に生息するビフィズス菌、乳酸菌や酪酸菌などの善玉菌の特異的な栄養素となって、それらの善玉菌を育成します。これらの善玉菌には、大腸内の便を軟らかくする効果があり、便通を改善させる効果に優れています。イヌリン水溶性食物繊維は、刺激性便秘薬とは異なり、大腸粘膜を刺激しないので、腹痛を伴うことなく、自然な排便が促進されます。また、イヌリン水溶性食物繊維は、大腸菌などの悪玉菌の栄養源にはならないので、腸内環境が特異的に改善する効果が報告されています。しかし、ゴボウなどの根菜類や野菜類に含まれるイヌリン水溶性食物繊維の量は極めて少なく、イヌリン水溶性食物繊維を根菜類あるいは野菜類から十分な量を摂取することが困難であるという欠点があります。とはいえ、最近では、スティムフローラのように、不純物を全く含まない極めて高純度のイヌリン水溶性食物繊維が健康補助食品として市販されていますので、甲状腺機能低下症あるいは橋本病に伴う便秘対策として活用することができます。一般の便秘薬は、反復使用によって、その効果が消失することが明らかとなっていますが、イヌリン水溶性食物繊維は天然素材であり、その反復的な摂取によっても、便秘改善効果が消失しないという特徴があります。 

 甲状腺機能低下症あるいは橋本病の治療では、一生涯、甲状腺ホルモン剤を飲み続けなければなりません。甲状腺機能低下症あるいは橋本病に伴う便秘についても、繰り返し、長期間にわたり、使えることのできる便秘対策が求められます。そのような観点から、甲状腺機能低下症あるいは橋本病で生じる便秘対策として、天然素材のイヌリン水溶性食物繊維が最も最適であるといえます。

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水溶性食物繊維「スティムフローラ」

根菜類に含まれる貴重な天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維は、腸内環境を改善し、自然な排便を促します。排便で苦痛を伴う方、お通じが毎日ない方、宿便気味の方、便が硬く排便が困難な方など、便の排泄にトラブルを抱えている方に、とても有用な天然成分です。スティムフローラは、この機能性の高い水溶性食物繊維を高純度(99%以上)に精製し、飲みやすいよう粒にした健康補助食品です。不純物を全く含まないので、病気で食事制限をしている方にも最適です。市販の食物繊維とは異なり、水に溶かさず、そのままお召し上がりいただけます。快適な、毎日のお通じのために!

http://www.stimflora.jp/

人工透析(血液透析)に伴う便秘

 人工透析療法(血液透析療法)を受けている患者さんの半数に、便秘症状がみられます。人工透析療法に伴う食事制限や食事管理によって、食物繊維の摂取量不足あるいは高齢による腸管の蠕動運動の低下により便秘が生じます。加えて、人工透析療法では、高カリウム血症や高リン血症の治療及び予防のために使われる処方薬の副作用で便秘が生じます。人工透析血液透析)による透析療法では、便秘を避けることができません。しかも、人工透析療法が行われている間は、絶えず慢性的に便秘が生じます。人工透析で生じる便秘は、透析患者さんの生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、生命に危険が及ぶ腸閉塞や腸管の壊死を発症させることもあるために、便秘は適切に対処する必要があります。人工透析で生じる便秘あるいは薬剤性便秘は、透析患者さんにとって軽視することはできません。人工透析療法では、便秘薬の使用に制限があります。人工透析療法に伴う便秘は、便秘薬や下剤では十分にコントロールすることができませんので、カリウムやリンなどの無機物質を含まないイヌリン食物繊維などの水溶性食物繊維の積極的な摂取が便秘の改善に推奨されています。酸化マグネシウムなどの非刺激性便秘薬やコーラックなどの刺激性便秘薬は、いずれも、人工透析に伴う便秘の治療には問題があるとされています。ここでは、「人工透析血液透析)に伴う便秘」についてお話します。

人工透析療法(血液透析療法)とは

 腎不全が進行し、それによる自覚症状の発現や腎機能が正常の10~15%以下になりますと、人工透析や腎移植などの腎臓の機能を代行する腎代替療法が必要となります。腎不全では、体内に老廃物が蓄積し、生命に危険が及ぶ尿毒症を引き起こしてしまいます。そこで、このような尿毒症の発現を防止するために、外的な手法で血液中の老廃物を除去し、併せて血液中の電解質と水分量を調整することが必要となり、そのための治療が行われます。これを人工透析療法あるいは血液透析療法といいます。通常、人工透析療法は、1回あたり4時間、これを週3回繰り返して行われます。このような人工透析療法の実施は、日常生活の上で、患者さんにとってとても負担が大きいのですが、臓器移植が一般化されていない現状において、人工透析療法は腎不全に対する唯一の療法であるといえます。

 人工透析療法を受けている患者さんの数は、年々増加しています。現在、32万人もの方が、人工透析療法を受けています。人工透析に至った原因の疾患は、糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病性腎症が約12万人と最も多く、人工透析全体の38%を占めています。次いで、慢性糸球体腎炎を原因疾患としたもので、約10万人、人工透析全体の31%を占めます。糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎の2つの疾患で、人工透析全体の70%を占めていることとなります。その他、人工透析に至った疾患として、腎硬化症、多発性嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、急性進行性糸球体腎炎、SLE腎炎などがあります。

 1983年当時、人工透析療法の対象となる原因疾患のほとんどが慢性糸球体腎炎であり、糖尿病性腎症による人工透析の実施件数は少なかったです。ところが、慢性糸球体腎炎を原因疾患とした人工透析の実施件数は年々少なくなる一方で、糖尿病性腎症を原因疾患とした人工透析療法の実施件数は年々増加し、1998年以降、現在に至るまで、人工透析療法が対象となる主要な原因疾患となっています。これは、糖尿病性腎症の原疾患となる糖尿病の患者数が、人口の高齢化とともに増加しているためです。糖尿病の発症→糖尿病性腎症→人工透析療法という一連の疾病と治療の流れの中で、まずは,出発点となる糖尿病の予防あるいはその治療対策が、人工透析療法を回避させることになります。

人工透析に伴う便秘

 人工透析は、極めて高頻度で便秘が伴います。人工透析療法で、「なぜ便秘になるのか」については、さまざまな原因が考えられます。その主なものは、以下の7つです。①カリウムの摂取制限を原因とした食物繊維の摂取不足、②水分の摂取制限と除水(人工透析)による腸内水分量の損失、③人工透析で処方されるお薬(カリウム及びリン吸収抑制剤)の副作用としての便秘、④人工透析の原疾患となる糖尿病性神経症による大腸及び直腸の運動機能低下、⑤人工透析患者さんの高齢化(加齢)に伴う運動不足、腹筋力の低下及び蠕動運動の低下、⑥人工透析療法で用いられる細菌感染防止のための抗菌剤投与による腸内細菌の減少、⑦パントテン酸を主としたビタミンB群の摂取不足、等です。

 人工透析患者さんの便秘は、生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、虚血性腸炎を引き起こし、致死性の腸管穿孔(腸管に穴が開くこと)に至ることもあります。人工透析療法において、便秘は軽視することができない合併症であるといえるでしょう。虚血性腸炎は、一般に大腸で発症しますが、人工透析が行われている患者さんでは、小腸でも発症します。人工透析では、便秘の常習化がみられますが、便秘の常習化は結腸から直腸の大腸部位に硬い便を生じさせ、後続する便の通過障害を引き起こします。便の貯留により、腸管内圧が上昇しますと、結腸は便が透けて見えるほど薄くなります。そこへ人工透析による結腸への血流低下などが加わりますと、腸管膜動脈虚血が起き、腸管壊死(虚血性腸炎)や穿孔が発症するのです。このように、人工透析療法に伴う虚血性腸炎の原因は便秘にあるといえるのです。

 ここでは、人工透析療法で生じる便秘の主原因となる「水分摂取制限を含む食事制限」及び「人工透析療法で処方される薬剤」と便秘との関係を中心にお話します。

人工透析療法と食事制限

 人工透析療法には、厳格な食事制限が伴いますが、この食事制限が人工透析療法で生じる便秘の原因となります。

 腎臓の働きには、①体内に蓄積された老廃物の除去、②体内水分量の調節、③電解質バランスの調節、④血液pHの調節、⑤血圧の調節、⑥造血刺激ホルモンの分泌、⑦ビタミンDの活性化、などがあります。人工透析療法を必要とする腎不全では、これらの腎臓の働きが低下するために、老廃物や水分が体内に蓄積し、むくみ、倦怠感、高血圧といった症状が現れ体調不良をきたします。そのため、食事制限を行うことによって、腎不全に伴う諸症状の発現を軽減させることとなります。これを人工透析時における食事療法といい、医療的治療と併せて人工透析時の重要な療法となります。

 人工透析時の食事療法には、主に3つのポイントがあります。第一に、蛋白質の摂取量を抑え、その分、炭水化物と脂肪分をしっかりと摂取して生命維持に不可欠なカロリー不足を補うことです。炭水化物と脂肪分は、体内で分解してカロリー源となりますが、それらが完全に分解しますと、最終的に水と炭酸ガスとなり、尿、腸管(糞便中)あるいは呼気中に排泄されます。これらの分解産物は、生体にほとんど影響しませんので、人工透析療法において問題はないということになります。他方、蛋白質は、最終的に尿毒症の原因となる尿素アンモニア、窒素化合物あるいは硫化化合物に分解されますので、腎不全で尿中排泄機能が低下した場合、これら毒性のある分解物が体内に蓄積されることとなります。また、炭水化物と脂肪分の摂取が十分な場合、体蛋白質の分解を抑えることになりますので、蛋白質由来の老廃物の生成を抑えることになります。

 第二に、人工透析時には、無機塩類としてのカリウム及びリンの摂取量を抑えることです。腎不全では、カリウムとリンの尿中排泄機能が低下します。排泄されなかったカリウムとリンは体内に蓄積されてしまい、それらの血液中濃度が上昇して、高カリウム血症や高リン血症が発症します。現に、人工透析療法を受けている患者さんの血液中のカリウム及びリンの濃度は高い値を示します。高カリウム血症あるいは高リン血症になりますと、心臓の不整脈心筋梗塞あるいは脳梗塞といった重大な合併症を引き起こし、生命に危険が及ぶこととなります。そこで、人工透析療法では、カリウム及びリンを含む食事は制限されることとなります。カリウムが多く含まれる食物は、野菜類、イモ類、果物類、野菜ジュース、青汁などです。また、リンが多く含まれる食物には、海藻類、牛乳、チーズ、ヨーグルト、洋菓子類などの乳製品類、インスタント食品類、加工食品類などです。人工透析では、これらの食品を摂取することが、極力制限することの対象となっています。人工透析療法において、カリウムとリンの摂取制限は、一時的なものではなく、毎日の食事の中で行われなければなりません。

 人工透析時における食事制限の3つ目のポイントは、摂取する水分量です。人工透析療法を受けている患者さんは、腎不全で腎機能が低下しているために、尿の排泄量もまた低下しています。そのため、水分を摂れば摂るほど、体内に水分が貯留してしまい、むくみなどの症状が現れます。また、体内に溜まってしまった水分のために、血液が希釈されてしまい、それに伴って、体のだるさ、倦怠感、疲労感などのさまざまな症状が現れます。そこで、人工透析療法では、摂取する水分量もまた制限されることとなります。人工透析療法では、食事に含まれる水分量も合わせて、1日あたり1リットルが目安とされています。この水分摂取量の制限は、非常に辛いものがあります。正常な成人の水分摂取量は、1日あたり2リットル程度ですので、人工透析療法の水分摂取量はその半分となり、食事以外からの飲料の摂取はほとんどできない状態となります。しかも、人工透析時は、毎日その制限を維持しなければなりません。

人工透析療法の食事制限と便秘との関係

 人工透析時の食事療法では、水分量、カリウム及びリンの摂取制限が行われます。しかし、この食事制限で問題となるのは、いずれの食事制限においても便秘が生じる原因となることです。

 口から摂取した食物は、胃と小腸で消化・吸収され、その残りが大腸に運ばれます。大腸に到達した食物の「残り」は、水分を多く含んだ液体状物質となりますが、大腸の管を通過する間に、大腸粘膜から水分が吸収され、さらにそれが直腸に到達するまでの間に固形物となって便が形成されます。健康な状態であれば、その固形物がそのまま排泄されることとなります。しかし、人工透析療法で水分摂取が制限されますと、体内に不足する水分を補おうとして、大腸からの水分吸収が過度に促進されてしまい、その結果、便が硬くなって便秘が生じます。それに加え、人工透析療法では、血液中の水分も除去されますので、これによっても体内の水分量が減少し、そのため大腸からの水分吸収が加速され、硬い便が一層ひどくなり排便困難となって頑固な便秘が引き起こされます。

 高カリウム血症を防止するためのカリウムの摂取制限あるいは高リン血症を防止するためのリンの摂取制限は、言い換えれば、カリウムあるいはリンを多く含む野菜類、根菜類及び海藻類の摂取制限となります。しかし、それらの食物の摂取制限は、同時に、食物繊維の摂取量の低下につながります。私たちは、排便に必要な食物繊維を主に野菜類、根菜類あるいは海藻類から摂取していますが、人工透析療法では、食物繊維が豊富な食物の摂取が、カリウムあるいはリンを含みそれが制限されるために、便の形成が十分となって便秘が生じます。水分の摂取制限は、さらに便秘を悪化させる原因となります。このように、人工透析療法に伴う水分及び食事制限は、いずれも便秘の原因となるのです。

人工透析療法の処方薬による便秘

  腎不全で人工透析療法を受けている患者さんには、さまざまな薬剤が病院で処方されます。その処方薬は、①人工透析に至った原疾患に係る薬剤(インスリン、糖尿病治療薬、ステロイド免疫抑制剤など)、②腎不全により不足するものを補う薬剤(貧血治療薬、ビタミンD製剤など)、③人工透析では十分にコントロールすることができないものを抑える薬剤(カリウム吸収抑制剤、リン吸収抑制剤、尿酸を下げる薬剤など)、④人工透析療法の合併症に対する薬剤(高血圧治療薬、脂質異常症治療薬、かゆみ止め、便秘薬など)、の4つに分類されます。これらの処方薬のうち、副作用として高頻度に発症する便秘を伴う主たる薬剤は、食事に含まれるカリウムあるいはリンの消化管吸収を阻害するカリウム吸収抑制剤及びリン吸収抑制剤です。

 食事に含まれるカリウムの吸収抑制剤を服用しますと、ほぼ全例で便秘が引き起こされます。腎不全でカリウムの尿中排泄が十分に行われなくなりますと、高カリウム血症を引き起こし、それにより不整脈などが生じて心臓に負担がかかります。人工透析によっても血液中のカリウムの除去は可能なのですが、実際は、それを十分に除去することができないのです。そのため、人工透析療法では、食事からのカリウム吸収を抑制する薬剤が処方されるのです。

 人工透析療法で用いられるカリウム吸収抑制剤には、ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)、ミタピラリン、アーガメイトまたはカリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)が用いられます。これらの薬剤は、全て陽イオン交換樹脂であり、腸管内容物中に溶けているカリウムイオンを吸着し、腸管からカリウムが吸収されないようにします。1日当たりの服用量は30グラムと、服用量が非常に多い薬剤です。また、リンの吸収抑制剤においても、レナジェル(セベラマー)などのように高分子性合成樹脂が医薬品として用いられています。

 このように、カリウム及びリンの消化管からの吸収抑制には、いずれも合成樹脂が薬剤として用いられています。しかし、これらの合成樹脂は、カリウム又はリンのみならず、水分も吸着する特性(吸湿性又は吸水性といいます)があり、そのため腸管内の水分が失われ、その結果、便が非常に硬くなってしまい、副作用としての便秘が生じます。人工透析療法においては、高カリウム血症及び高リン血症の発症を予防・改善するために、カリウムあるいはリンの吸収抑制剤が処方されますが、これらの薬剤には便秘を引き起こす副作用があるのです。

人工透析療法における便秘対策

 人工透析療法では、水分摂取制限、カリウム及びリンの消化管吸収を回避させるための食事療法・食事制限及び高カリウム血症、高リン血症の予防と治療を目的とした処方薬、などによって便秘が引き起こされます。いずれも硬い便となるために便秘が生じます。人工透析療法で生じる便秘は、1つの原因で生じるのではなく、複合的な要因によって引き起こされる特徴があります。従って、人工透析療法における便秘対策は、その原因とメカニズムを理解した上で、対処する必要があります。

 人工透析療法を受けている患者さんの便秘は、便が硬く出にくいタイプの便秘となりますので、便を軟らかくする作用のあるソルビトールラクツロースが病院で処方されます。ソルビトールラクツロースには水分保持能があり、それで便の量が増えて排便を促します。しかし、人工透析療法では、そもそも食事制限によって、便が形成される食事の残渣が少なくなるので、ソルビトールラクツロースを内服しても、排便に必要な十分な量の便が形成されず、便秘の治療効果が不十分な場合が多いです。酸化マグネシウムは、高マグネシウム血症が生じる危険性があるために、人工透析療法時の便秘には用いられません。また、薬局などで市販されているセンノシドなどの刺激性便秘薬も、人工透析時の便秘には用いられません。人工透析療法時の便秘は、大腸に硬い便が詰まっている状態ですので、このような大腸を刺激する便秘薬を服用しますと、腸に孔が開いたり、あるいは腸閉塞になる危険性が高まるためです。

 人工透析療法に伴う便秘の主たる原因は、食事制限に基づく食物繊維摂取量の低下です。従って、まずは便形成の原料となる食物繊維を摂取する必要があります。とはいえ、食事制限のために、一般の食物から食物繊維を摂ることは不可能ですので、市販の食物繊維を活用することになります。その際、青汁やスムージーなどは、カリウムが多量に含まれていますので、使用することはできません。また、不純物を含む食物繊維のサプリメントも、カリウムやリンが含まれていますので使用することはできません。さらに、水に溶けない不溶性の食物繊維についても、腸閉塞などの胃腸障害の原因となりますので、人工透析療法時の便秘対策には不適当となります。

 それでは、人工透析療法時において、どのようにし食物繊維を補給したらよいのでしょうか。最近、スティムフローラのように、不純物を全く含まない極めて高純度のイヌリン水溶性食物繊維が、人工透析時の便秘対策として注目されています。イヌリン水溶性食物繊維は、ゴボウ、アスパラ、タマネギ、ニンニクなどの根菜類や野菜類に含まれる食物繊維で、水によく溶け、また水に溶けても膨潤化しないため、大腸の刺激性がないという特徴があります。イヌリン水溶性食物繊維は、胃酸や胃腸管内の消化酵素では分解されずに大腸に到達します。大腸に到達したイヌリン水溶性食物繊維は、大腸内に生息するビフィズス菌、乳酸菌や酪酸菌などの善玉菌の特異的な栄養源となり、それらの善玉菌を増やす作用に優れています。大腸菌などの悪玉菌の栄養源にはなりませんので、善玉菌のみが増えます。大腸内でこれらの善玉菌が増えることによって、硬くなった便が軟らかくなり、また善玉菌が増えることにより、便の量も増え排便が促進されます。人工透析療法に伴う便秘の対策には、さまざまな制限や制約がありますが、イヌリン水溶性食物繊維を用いた便秘対策は、それらの制限や制約に影響されない唯一の便秘対策となります。

 人工透析で生じる便秘は、通常の便秘とは異なり、放置することはとても危険です。積極的な便秘対策が求められ、特に、その予防はとても重要となります。人工透析療法に伴う便秘は、さまざまな原因が重なって生じる難治性で重大な症状です。その主たる原因は、人工透析療法に伴う食事制限とその処方薬です。人工透析で生じる便秘の対策には、多くの制限や制約がありますが、水溶性食物繊維であるイヌリン食物繊維の摂取は、人工透析療法時の便秘対策における唯一の方策となります。

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水溶性食物繊維「スティムフローラ」

根菜類に含まれる貴重な天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維は、腸内環境を改善し、自然な排便を促します。排便で苦痛を伴う方、お通じが毎日ない方、宿便気味の方、便が硬く排便が困難な方など、便の排泄にトラブルを抱えている方に、とても有用な天然成分です。スティムフローラは、この機能性の高い水溶性食物繊維を高純度(99%以上)に精製し、飲みやすいよう粒にした健康補助食品です。不純物を全く含まないので、病気で食事制限をしている方にも最適です。市販の食物繊維とは異なり、水に溶かさず、そのままお召し上がりいただけます。快適な、毎日のお通じのために!

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生理前の便秘:月経前症候群・PMSと便秘

生理前になると便秘で悩まされる女性、きっと多いことでしょう。女性のほとんどの方が経験するのが月経前症候群PMS)とよばれる生理前の諸症状で、便秘もそれに含まれる症状となります。生理の約2週間前の排卵日から生理開始までの時期に現れる身体的及び精神的な不快な症状を総称して月経前症候群PMS, Premenstrual Syndromeの略)とよばれています。月経前症候群PMS)は、月経周期にあわせて毎月発現しますので、周期的な症状の出現が特徴となります。月経前症候群PMS)として生じる便秘もまた周期的に引き起こされることとなります。月経前症候群PMS)の症状は、身体的症状と精神的症状とに分かれます。月経前症候群PMS)にはさまざまな症状が現れますが、生理前になるときまって便秘が起こるという女性もたくさんおられます。このタイプの便秘は、月経前症候群PMS)の身体的症状に分類されます。月経前症候群PMS)で引き起こされる便秘の解消に、便秘薬や下剤の使用は適当ではございません。月経前症候群PMS)による便秘は、周期的に現れますので、その都度、便秘薬や下剤を用いますと、それらのお薬の効力が次第に失われてしまい、効果が消失してしまうためです。月経前症候群PMS)の諸症状の改善には薬物療法が用いられます。身体的症状では、低用量ピル・経口避妊薬が用いられ、精神的症状には抗うつ薬がよく用いられます。しかし、何れのお薬とも、副作用として便秘が生じますので、反って、便秘が悪化してしまうことがあります。月経前症候群PMS)の存在は、まだ多くの女性に広く知られていないために、周期的な身体的あるいは精神的症状に、独り悩む女性も多いのではないかと思われます。月経前症候群PMS)の精神的症状で情緒不安定になりますと、人が変わったようにみえたりもします。生理のない男性にしてみれば、月経前症候群PMS)を理解することは、非常に難しいのかもしれません。ここでは、女性の悩みである生理前の便秘、月経前症候群PMSと便秘についてお話します。

 月経周期とは

  子宮の内側を覆っている子宮内膜が剥がれ落ち、血液とともに子宮口から排泄されることを月経(生理)といいます。月経は、思春期から始まり閉経までの間、ほぼ毎月、周期的に起こります。月経の初日が月経周期の始まりとされ、次の月経の前日までが、1つの月経周期となります。月経周期には21日から40日と幅があり、個人差がみられます。28日周期で月経がある女性は、10~15%と意外と少ないです。初潮直後や閉経直前の数年間は、月経の間隔が長くなります。月経周期は、卵胞期、排卵期、黄体期の3つに区分されます。また、月経周期は、脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモン及び卵巣で作られるエストロゲンプロゲステロンの女性ホルモンによって調節されています。

月経周期・卵胞期

  卵胞期は、月経初日から黄体形成ホルモンの濃度が急上昇する直前までの期間で、月経周期のうち13日程度が平均的となっています。卵胞期では、卵巣内の卵胞が発達し、黄体形成ホルモンの濃度が急上昇しますと、卵胞から卵子が放出され排卵が起こります。卵胞期の初期には、胎児に栄養を供給しようとするために、子宮内膜が栄養分と水分とで厚くなっています。受精が起こらなければ、エストロゲンプロゲステロンの女性ホルモン濃度は下がり、子宮内膜が剥がれ落ちて月経・生理が始まります。月経の平均的期間は、5日間です。卵胞期の初期には、卵胞刺激ホルモンが多めに分泌され、この刺激によって3~30個の卵子が1つずつ含まれる卵胞が成長します。卵胞期後期では、卵胞刺激ホルモンの分泌量が減り、成長した卵胞のうち1個のみが発育を続けます。この1個の卵胞は、エストロゲンを分泌するようになり、それにより他の卵胞は消滅します。

月経周期・排卵

  排卵期は、黄体形成ホルモン濃度の急上昇とともに始まり、卵胞刺激ホルモン濃度も僅かに上がります。黄体形成ホルモンの刺激により、発育を続けた1個の卵胞が、卵巣の表面から飛び出て、やがてその卵胞は破裂し卵子が放出されます。排卵期は、卵子の放出で終わります。通常、卵子は黄体形成ホルモン濃度の急上昇から36時間後に放出されます。放出された卵子が受精できる期間は約12時間で、卵子が放出される前に精子が子宮内に入っていると受精する可能性が高まります。人によっては、排卵の時期に、下腹部の左右何れかの側に鈍い痛みを感じることがあります。痛みは、卵子を放出する卵巣のある側で起こります。卵巣は、下腹部の左右2箇所にありますが、排卵が起きる卵巣の規則性はございません。

月経周期・黄体期

  黄体期は、排卵期の後に続く期間で、受精しなければ、約14日間続いて次の月経直前に終わります。黄体期には、破裂し卵子を放出した卵胞が閉じて黄体とよばれる内分泌組織に変化します。そこでは、多量の女性ホルモンであるプロゲステロンを分泌します。黄体は、次の排卵で受精が起きた場合に備えて、子宮の準備を行います。プロゲステロンには、子宮内膜を厚くして、栄養分や水分を蓄える働きがあります。また、子宮頸部の粘液を濃くして、細菌や精子が子宮内に侵入するのを防ぎます。さらに、プロゲステロンの作用で、黄体期の体温はやや上昇します。黄体期の後半には、エストロゲンの分泌も上昇し、子宮内膜の成長を促します。プロゲステロンエストロゲンの分泌が上昇しますと、乳房内の乳管が大きくなり、乳房が膨らんだり、乳房を手で触れると痛みを感じることがあります。このように、月経周期の各期に依存して、女性ホルモンの分泌は、絶えず変化していることになります。

月経前症候群PMS

  この一連の月経周期において、月経前症候群PMS)は、月経周期の黄体期に起こります。月経前症候群PMS)は、月経前緊張症あるいは黄体期症候群ともよばれることがあります。月経前症候群PMS)が起こる原因については、未だに不明な点も多く、そのためさまざまな原因説があります。その中で有力視されているのが、月経周期にあわせた卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、エストロゲンプロゲステロンなどの女性ホルモン等の異常変動説です。他の原因説としては、レニン・アンジオテンシン系の異常説、セロトニンなどの神経伝達物質の異常分泌説、自律神経失調説、アレルギー説などがあります。

 月経前症候群PMS)は、身体的症状と精神的症状の2つに分かれます。毎月、月経・生理の前になると便秘になるというのは、月経前症候群PMS)の典型的な身体的症状となります。その他の身体的症状には、乳房が張る、乳房痛、下腹部痛、下腹部の膨満感、頭痛、腰痛、関節痛、むくみ、体重の増加、脚が重い、ニキビ、めまい、食欲亢進、吐き気、動悸、不眠あるいは過剰な睡眠欲などがあります。他方、月経前症候群PMS)の精神的症状には、怒りやすい、反抗的、反感、闘争的、憂鬱感、緊張感、無気力感、判断力の低下、孤独感、イライラ感、疲労感、パニック、妄想、集中力の低下、気力が続かない、涙もろい、悪夢をみる、異性に対する攻撃や暴力などがあります。

月経前症候群と便秘

  月経前症候群PMS)・生理前の便秘の原因は、主に月経周期の黄体期におけるエストロゲンプロゲステロンの異常変動によるものと考えられています。これらの女性ホルモンは、自律神経系にも作用します。自律神経系には、交感神経と副交感神経とがありますが、これらの女性ホルモンの異常変動によって、交感神経が優位となり、その一方で、副交感神経が抑制されます。副交感神経は、腸の蠕動運動の働きを促進させる機能を有していますが、この女性ホルモンの異常変動によってそれが抑制されますと、腸の蠕動運動が抑制され、便が腸管内に留まる時間が長くなります。そのため、便の水分が過剰に体内に吸収されてしまい、その結果、便が硬くなって便秘が引き起こされます。このように、月経前症候群PMS)で引き起こされる便秘は、月経周期による女性ホルモンの異常変動によって生じるものと考えられています。

 このような月経前症候群PMS)・生理前に引き起こされる便秘の解消に、便秘薬や下剤を用いることは適当ではございません。月経前症候群PMS)による便秘は、月経周期にあわせて周期的に生じますので、便秘薬や下剤もそれにあわせて周期的に使用することとなります。便秘薬や下剤は、腸管粘膜を刺激することによって排便を促します。しかし、これらの便秘薬等を繰り返し使用しますと、次第に腸管粘膜は、これらのお薬の刺激に慣れてしまい、その結果、これらのお薬が効かなくなってしまいます。便秘薬の繰り返しによる使用は、その効果が減弱し、最終的には全く効かなくなります。

 月経前症候群PMS)の諸症状の改善には、薬物療法がよく用いられます。身体的症状には、低用量ピル・経口避妊薬を用いたホルモン療法が行われます。また、精神的症状の改善には、抗うつ薬精神安定剤を用いた薬物療法が行われます。しかし、低用量ピルを用いたホルモン療法では、もともと月経前症候群PMS)を引き起こす原因となる女性ホルモンが有効成分となっているために、便秘については、むしろ症状が悪化することがあります。また、抗うつ薬抗不安薬などの精神安定剤のほとんどは、副作用として便秘が高頻度に現れることがよく知られています。これらの精神安定剤には抗コリン作用があり、そのため自律神経に作用して、腸管の蠕動運動を抑制してしまい、便秘が引き起こされます。パキシルなどのセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)についても、副作用として便秘が生じます。このように、月経前症候群PMS)のホルモン療法や薬物療法による治療は、反って、便秘を悪化させることがあります。便秘を伴わない月経前症候群PMS)に、これらの治療を行った場合、新たに薬物の副作用による便秘が引き起こされることもあります。

月経前症候群・生理前の便秘解消法

  このように、月経前症候群PMS)の身体的症状に便秘が含まれます。月経・生理の前にきまって便秘が生じるのはこの理由によるものです。また、月経前症候群PMS)の諸症状の改善には薬物療法がありますが、これに用いるお薬の副作用で便秘が悪化したり、あるいは新たに便秘が引き起こされることがあります。月経前症候群PMS)の清浄としての便秘においても、あるいは諸症状の緩和のための薬物療法による副作用としての便秘においても、何れにも共通することは、腸の蠕動運動の抑制を原因とする便秘です。硬い便となり、便秘が引き起こされます。したがって、便を軟らかくすることが、月経前症候群PMS)の便秘や薬物療法による便秘の解消につながります。

  便を軟らかくするには、水溶性食物繊維であるイヌリン食物繊維が効果的です。イヌリン水溶性食物繊維は、大腸に生息する人の健康に有益なビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌の栄養源となって、それらの善玉菌を特異的に増やす作用があります。ビフィズス菌や乳酸菌は、栄養源として取り込んだイヌリン水溶性食物繊維代謝させ繁殖しますが、その時に、副産物として酢酸(お酢)、乳酸、酪酸などの有機酸が生成します。これらの有機酸は、健康に有益なさまざまな作用を有していますが、便を軟らかくする効果も併せ持っています。ですので、イヌリン水溶性食物繊維は、月経前症候群PMS)・生理前の便秘や薬物療法の副作用として生じる便秘の何れに対しても有効となります。今では、スティムフローラのように、不純物を全く含まない高純度のイヌリン水溶性食物繊維が、健康補助食品として市販されています。月経前症候群PMS)・生理前の便秘の予防と改善に、このような健康補助食品を活用することも有用です。

 月経前症候群PMS)の精神的症状である情緒不安定は、異性や職場の同僚に対して、誤解を与えてしまうかもしれません。月経前症候群PMS)の存在は、まだあまり広く知られていませんので、この症状の認識が広がることを願ってやみません。

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水溶性食物繊維「スティムフローラ」

根菜類に含まれる貴重な天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維は、腸内環境を改善し、自然な排便を促します。排便で苦痛を伴う方、お通じが毎日ない方、宿便気味の方、便が硬く排便が困難な方など、便の排泄にトラブルを抱えている方に、とても有用な天然成分です。スティムフローラは、この機能性の高い水溶性食物繊維を高純度(99%以上)に精製し、飲みやすいよう粒にした健康補助食品です。不純物を全く含まないので、病気で食事制限をしている方にも最適です。市販の食物繊維とは異なり、水に溶かさず、そのままお召し上がりいただけます。快適な、毎日のお通じのために!

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便秘

便秘は、排泄行為に関連するものですから、他人あるいは家族さえその悩みを相談することができず、一人で悩んでいる方もきっと多いことでしょう。排便周期には個人差があり、便秘であるか否かの判断に困っている方、いままで便秘がなかったのに、急に便秘になった方、便秘が治らず何とか対処したいという方、便秘の原因についてもっと詳しく知りたい方、便秘の予防法や治し方について情報を得たい方、そんな便秘でお困りの方のために、便秘のあれこれを綴ってみました。ここでは、「便秘とは」(便秘の定義)、「便秘症とは」、「急性便秘と慢性便秘」、「器質性便秘と機能性便秘」、「便秘の予防」、「便秘の治し方」等についてお話します。便秘対策には、その予防と改善の双方に有効な方法が理想的な対策となり、また安全性が確立され、繰り返し服用しても効果の減弱がみられない野菜や根菜類に含まれる天然成分が最適です。便秘の改善も当然のことながら重要なのですが、便秘の予防も積極的に取り組む必要があります。

便秘とは 

「便秘」には個人差があり、そのため便秘に関する明確な定義はございませんが、一般的には「便が滞った、又は便が出にくい状態」と定義されます。「便が滞った状態」とは、なんらかの原因によって排便回数や便の量が減少した状態をいい、「便が出にくい状態」とは、排便するのに努力や苦痛を伴う状態」をいいます。いきんでも排便できない状態、あるいは子どもでは、排便時の肛門の痛みで泣いたりする状態のことをいいます。

 「便秘」に関する定義は、医学会によってまちまちですが、ここでは、国際的に用いられているRome基準による便秘の診断基準を示します。2016年に改訂されたRomeⅣ基準では、以下の要件を満たすとき「便秘」であると診断されます。

1. 次の2つ以上の項目を満たす場合

a. 排便時の25パーセント以上に、いきみがある(排便時の4回に1回以上の頻度で、いきまないと排便できない状態であること)。

b. 排便時の25パーセント以上(排便時の4回に1回以上)に、兎糞状の便又は硬い便(硬便)がある。

c. 排便時の25パーセント以上に、残便感がある。

d. 排便時の25パーセント以上に、直腸肛門の閉塞感又はつまった感じがある。

e. 排便時の25パーセント以上に、用手的に排便を対応している(排便のために摘便や骨盤底の圧迫等を行っている)。

f. 自発的な排便が、週に3回未満である。

2. 下剤を使わずに軟便になることが稀であること。

3. 過敏性腸症候群IBS)の診断基準を満たさないこと。

☆少なくとも6か月以上前から、これらの症状又は状態にあり、最近の3か月間は、上記の基準を満たしていること。

 便秘の医学的診断にはさまざまな要件が付されていますが、自らが便秘である可能性を見極めるには、「排便の回数」の評価が最も簡便で有効的です。排便の回数は、個人差が大きいのですが、一般に「排便の回数が週3回未満」である場合、便秘の目安となるでしょう。排便は腸の働きによって起こります。腸の働きが正常であれば、1日3回、少ない人であれば週に3回程度、腸の蠕動運動によって排便が生じます。したがって、排便が週に3回未満であれば、正常な排便周期から逸脱することとなり、「便秘」の状態であると考えることができます。

 便秘の判断を自ら行う場合、排便の回数のみならず、排便される便の形状や便の硬さも参考となります。例えば、コロコロした硬い便は兎糞便といい、便秘の典型的な症状となります。以上のように、便秘あるか否かの判断は、排便の回数と便の形状の2つが主要な要件となるでしょう。

便秘症とは

「便秘症」とは、便秘又はそれによる身体症状が現れ、診療や治療を必要とする場合のことをいいます。「・・・症」とは、診療や治療の対象となる「やまい(病気)」のことをいいます。「便秘による症状」とは、便秘によって生じた腹痛、腹部膨満感、腹部不快感、排便できないことに対する精神的不安、排便の際の痛みや出血、あるいはニキビ、湿疹、肌荒れ等の皮膚症状など、便秘を原因としたさまざまな症状のことをいいます。

 便秘による腹痛や腹部膨満感は、「お腹にガスが溜まっているみたい」、「お腹が張って苦しい」、「お腹の下の方が痛む」などの症状が現れます。便秘による腹痛は、一般に、おへその下側で生じ、おへその真下、右側、左側、肛門に近い下腹部などで生じます。便秘の腹痛で多いのは、左側下腹部と肛門に近い下腹部です。腹部不快感は、排便時の不快感です。「便意があるのになかなか出ない」、「強くいきまないと便が出ない」、「排便したのにスッキリせず、まだ残っている感じがする」など、排便時に不快な状態も便秘によくみられます。便秘になりますと、残便感があり、通勤や通学時あるいは勤務中や学校での授業中に、排便でトイレに駆け込むのではないかと不安に駆られます。そうなりますと、仕事や勉強に集中することができなくなり、精神的に不安定となります。これを便秘による精神的不安感あるいは不安症といいます。便秘は、体の器質的障害のみならず精神的な障害も伴うのです。便秘で排便困難になりますと、無理にいきむこととなり、その結果、排便時の痛みや硬い便によって直腸や肛門の粘膜を傷つけることにより出血が生じます。便秘は、腹部の症状のみならず、発疹などの皮膚症状が現れます。ニキビ、吹出物、発赤などが便秘によって生じ、肌荒れの原因となります。肌荒れ対策には、クリームやローションなどの使用がよく知られていますが、便秘を原因とする肌荒れは、そのような肌荒れ対策では効果がなく、便秘という源の原因対策が必要となります。ニキビや吹出物で、クリーム・ローションによる対策を考えている方は、実は便秘という内臓疾患から皮膚障害が生じていることを理解していただきたいです。便秘は、下腹部の症状のみならず胃の障害や頭痛の原因ともなります。便秘が生じる原因にストレスがありますが、それは頭痛や胃痛などの機能性ディスペプシアや胸焼けの原因となる逆流性食道炎の原因ともなります。

急性便秘と慢性便秘

便秘は、その病状の期間から、「一過性便秘(急性便秘)」と「慢性便秘」とに分類されます。一過性便秘と急性便秘とは同義語です。急性便秘は、いったん便が排出されますと、便秘による諸症状が消失し、また便が排出されるまでの期間も短期間となります。他方、慢性便秘では、長期間にわたり便秘及びそれに伴う諸症状が長期間にわたり継続する状態をいいます。急性便秘では、特に、対策を講じる必要はございません。しかし、女性の生理周期による便秘の場合のように、生理の周期に準じて便秘が生じる場合、これは急性便秘の繰り返し状態となりますので、便秘対策が必要となります。急性便秘は、1回限りのものであれば、その治療や対策は特に必要とはなりませんが、生理周期による便秘のように、急性便秘であっても、それを繰り返す場合には便秘対策を講じることとなります。慢性便秘の場合は、急性便秘以上に、真にその対策が求められます。

器質性便秘と機能性便秘

 器質性便秘は、症候性便秘と同義語で、解剖学的異常を含む器質性疾患による便秘です。基礎疾患や全身性疾患に伴う便秘も含まれます。機能性便秘は、器質性便秘を除いた便秘のことをいいます。特発性便秘ともよばれます。単純性便秘や習慣性便秘と同義語となります。機能性便秘の多くが生活習慣や食習慣の改善で対処することができるのに対し、器質性便秘は積極的な治療や対策が必要となります。

 器質性便秘は、他の疾患を原因として生じる便秘となりますが、便秘とともに他の症状も合併して現れることがあります。例えば、吐き気、嘔吐、激しい腹痛、血便、便への粘液混入、急な発熱などです。

 器質性便秘は、大腸の管が狭くなった狭窄性便秘と、狭窄ではないですが大腸の形態的変化によって生じる非狭窄性便秘とに分類されます。狭窄性便秘は、大腸の管が狭窄することによって、糞便の通過が物理的に障害されることによって生じる便秘です。大腸ポリープ、大腸がん、腸閉塞、腸捻転潰瘍性大腸炎クローン病あるいは腹膜炎、子宮筋腫、卵巣腫瘍などによる大腸壁外性圧迫による便秘が代表的な狭窄性便秘となります。疾病ではございませんが、妊娠による便秘も胎児による大腸壁外性圧迫による一種の狭窄性便秘であるといえます。内臓や生殖器の外科手術あるいは帝王切開による出産後に生じる臓器の癒着も狭窄性便秘の原因となります。他方、非狭窄性便秘には、大腸が慢性的に顕著な拡張を呈する場合と直腸の形態的変化を伴う場合とがあります。巨大結腸症のように、大腸の管が拡張しますと、糞便の大腸内通過が遅延して排便回数や排便量が減少し便秘が生じます。また、直腸瘤、直腸重積、巨大結腸症などのように直腸が形態的に変化した場合、あるいは小腸瘤やS状結腸瘤などの消化管形態変化の場合、直腸にある糞便を十分量かつ快適に排出することができなくなり、このような便排出障害のために、排便困難や不完全排便による残便感を生じる便秘が引き起こされます。

 機能性便秘は、大腸の働きの異常が原因で生じる便秘であり、弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘、食事性便秘の4つに分類されます。特に基礎疾患がまったくなく、それでいて便秘になる人の多くが機能性便秘であるといえるでしょう。一般に、女性で多くみられる便秘のほとんどが機能性便秘です。

 健康な大腸は、一定の緊張とリズムをもって運動しています。ところが、大腸の緊張と運動が低下しますと、大腸内の内容物の通過が遅れ、内容物に含まれる水分の吸収が増加してしまい、その結果、硬い便となって便秘が生じます。これを弛緩性便秘といいます。排便時に腹圧をかける(いきみ)に必要な腹筋などの筋力が弱まることも便秘の原因となります。妊婦さんの便秘がその例です。痙攣性便秘は、自律神経の乱れによって生じます。ストレスや感情の高まり等によって自律神経が乱れ、特に副交感神経が緊張しすぎることによって痙攣性便秘が生じます。自律神経が乱れますと、大腸の下行結腸部位に痙攣が生じ、その管の部位が狭くなり、それが便の移送を妨げることによって便秘が生じます。パーキンソン病などの精神神経系疾患においても痙攣性便秘が生じやすくなります。痙攣した部位の上部は、腸内の圧力が高まるために、お腹が張った感じ(腹部膨満感)がして、不快感や痛みを感じます。また、排便があっても、便の量が少なく、硬い塊(兎糞便)となります。痙攣性便秘では、残便感を訴える人が多いです。直腸性便秘は、排便を我慢することによって生じる便秘です。便が直腸の中に入りますと、直腸の壁が伸び、その刺激で便意が起こります。ところが、その便意を我慢して排便を怠りますと、やがて便意がなくなります。このような状態を繰り返しますと、便に対する直腸の感受性が低下してしまい、直腸内に便が入っても便意を感じなくなり、便秘が生じます。直腸性便秘は、仕事や勉学に拘束されやすい人、例えば学校に通う児童や若い女性に多いタイプの便秘です。食事性便秘は、食物繊維や食事の量の減少によって生じる便秘です。食物繊維の少ない食習慣では、腸壁に適度の刺激がなくなり便秘が生じます。食生活の欧米化やダイエット志向により食事性便秘が急増しています。また、人工透析や糖尿病などの疾患では、厳格な食事制限が課せられますが、このような疾病による食事制限は食事性便秘の原因となります。その他、医薬品の副作用として便秘が生じることがあります。これを薬剤性便秘といいます。高血圧や心不全の治療に用いられるカルシウム拮抗薬や利尿剤等を服用しますと薬剤性便秘が生じることがあります。向精神病薬の服用も便秘を引き起こすことがあります。このように便秘はさまざまな原因で生じますが、食事の欧米化やストレス社会である現代においては、ますます便秘が増加するものと考えられます。 

便秘の予防

便秘は誰にでも起こる症状です。便秘になってから対処するものではなく、普段からその予防に心掛けることがとても大切となります。特に、慢性便秘になりますと、治療が困難となることが多いので、便秘の徴候が現れましたなら、速やかに便秘対策を講じ、それを継続することが重要です。

 便秘の予防は、食物繊維や水分を十分に摂るなど、食生活の改善が基本となります。加えて、適度な運動や排便の習慣付け、ストレスの発散も心掛けとよいでしょう。便秘の予防は、まずは食生活を見直すことです。そのポイントは、以下の4つです。第一に、食事のリズムを整えることです。朝昼晩3食をしっかり摂り、特に朝食を抜かないことが大切です。第二に、食物繊維や水分を十分に摂ることです。特に、イヌリン食物繊維などの水溶性食物繊維は、便秘の予防のみならず、便秘の改善対策としてもとても有効です。食物繊維は、腸の蠕動運動を高め、糞便を排出しやすくします。野菜類、穀物類、いも類、豆類、海藻類、寒天、果物など、食物繊維を多く含む食品を十分に摂るようにしましょう。水分が不足しますと、便が硬くなってしまいます。水分を含んだ便は、便の容積が増して腸に刺激を与え、便意を起こしてくれますので、水分を十分に摂ることが大切です。朝一杯の水や牛乳を飲むことを習慣づけるとよいでしょう。第三に、極端なダイエットは避け、バランスのとれた食生活が便秘の予防につながります。極端に食事の量を減らしますと、食物繊維や水分の摂取も不足してしまいます。また、太る原因とされる食事の脂肪分を減らしますと、便の滑りが悪くなってしまい、便秘の原因となります。ダイエットにより排便のリズムが崩れますと、便秘のみならず健康や美容にも悪影響を及ぼします。栄養的にバランスのとれた食生活に心掛けましょう。第四に、腸内環境を整える食品を積極的に摂ることです。乳酸菌やビフィズス菌を含むヨーグルトや納豆などの発酵食品は腸内環境を整え、便秘の予防になります。野菜類や根菜類に含まれるイヌリン水溶性食物繊維は、食物繊維としての作用と腸内環境を整える作用の双方を兼ね備えていますので、便秘の予防と改善の両者にとても有用な食品成分です。日常の食生活に、このような腸内環境を整える食品を十分に採りいれることが、便秘の予防につながります。

便秘の治し方

便秘の改善に便秘薬を選択する人もきっと多いことでしょう。しかし、便秘薬には、そのメリットとデメリットがあり、便秘の改善に必ずしも適しているとはいえません。便秘薬の使用は、急性便秘に対してのみ適しているのであって、慢性便秘や女性の生理前の便秘のように、急性便秘を繰り返す便秘にも、便秘薬は適しておりません。便秘の予防の観点からも、便秘薬は適しておりません。さらに、基礎疾患による便秘や妊婦さんあるいは授乳婦さんの便秘における便秘薬の使用は,その副作用を理由として、使用禁忌(使用不可)とされています。便秘対策は、安全でしかも長期にわたり使用可能なものを選択する必要があります。また、基礎疾患を伴う便秘では、基礎疾患の治療薬と飲み合わせても問題のない便秘対策が求められます。

 便秘薬は、医師の処方なしでドラックストアや薬局で入手可能ですが、それらの便秘薬も医薬品ですので副作用が伴います。市販の便秘薬には、アントラキノン系便秘薬、ジフェニルメタン系便秘薬、塩類下剤、膨張性下剤などがあります。アントラキノン系便秘薬とジフェニルメタン系便秘薬は、いずれも腸の粘膜刺激作用があり、腸の蠕動運動を促進させる働きがあります。代表的なアントラキノン系便秘薬には、コーラック、ビューラック、スルーラックなどがあり、またジフェニルメタン系便秘薬には、コーラックソフト、ビオフェルミンなどがあります。多くの方が、ドラッグストアで購入する便秘薬は、それらアントラキノン系便秘薬とジフェニルメタン系便秘薬です。これらの便秘薬は、大腸の粘膜に作用し、その刺激によって便通の改善を図るものですが、その反復使用によって便秘改善効果が消えてしまうというデメリットがあります。これらの便秘薬を繰り返し服用しますと効果が現れなくなるということになります。したがって、慢性便秘や急性便秘を繰り返す場合には、それらの便秘薬の使用は不適当であるといえます。また、それらの便秘薬を使用しますと、大腸粘膜を刺激する有効成分が体内に吸収されてしまい、そのためそれらの便秘薬は、妊婦さんや授乳婦さんには使用禁忌となっています。授乳婦さんがそれらの便秘薬を服用しますと、有効成分が体内に吸収され、それが乳汁に分泌されます。そのため、乳汁を摂取する赤ちゃんは、お母さんが服用した便秘有効成分を間接的に飲むこととなり、その結果、赤ちゃんに激しい下痢が生じます。赤ちゃんの激しい下痢は、体内水分量の低下と栄養的欠損により、その健康と成長に重大な影響を及ぼすこととなります。アントラキノン系便秘薬とジフェニルメタン系便秘薬は、その繰り返し使用により、大腸粘膜刺激作用が徐々に減弱し、最終的には便秘改善効果が発現しなくなります。従いまして、これらの大腸刺激による便秘薬は、慢性便秘や急性便秘を繰り返す便秘には不適当となります。さらに、それらの便秘薬の服用は、大腸粘膜が黒色に変化する大腸メラノーシスが生じたり、大腸の刺激により激しい腹痛が生じます。

 酸化マグネシウムは、大腸内で膨潤化し、便の量を多くすることで便秘を改善する膨張性下剤です。医療機関でもたびたび処方されます。しかし、酸化マグネシウムを服用しますと、マグネシウム成分が体内に吸収され、高マグネシウム血症を引き起こします。血液中のマグネシウム濃度が上昇しますと、心臓の機能に悪影響を及ぼし、心不全という重篤な副作用が発現します。現に、酸化マグネシウムの副作用による死亡例が報告され、厚生労働省は、酸化マグネシウムの処方に関して、厳重な警告を発表しています。このように、便秘対策に便秘薬の使用は、あまり有用なものとはいえず、むしろ便秘薬の体内吸収によるリスクが大きいと考えられています。

 それでは、体にやさしい便秘対策あるいは便秘予防にはどのようなものがあるのでしょうか。現在、便秘の予防と改善の両者に有効であるとされているのが水溶性食物繊維です。とりわけ、イヌリン水溶性食物繊維は、腸内に生息する乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を特異的に増やす作用に優れており、各種の食品成分の中で、最も腸内環境の改善効果が高いといわれています。オリゴ糖にも善玉菌を増やす作用がありますが、大腸菌などの悪玉菌もまた増えてしまうため、相対的に腸内環境の改善効果は高いとはいえません。他方、イヌリン水溶性食物繊維は、ビフィズス菌などの善玉菌の特異的な栄養源となってそれらの善玉菌を増やしますが、悪玉菌に対しては栄養源とはならないために、それらの悪玉菌を増やす作用はございません。イヌリン水溶性食物繊維は、善玉菌のみを特異的に増やすという特徴があり、理想的な腸内環境改善成分であるといえます。

 便秘にはさまざまなタイプがありますが、共通するのは「硬い便」となって排便が困難となることです。ですので、便秘の予防や改善には、硬くなった便を軟らかくすることが最も重要であると考えられます。硬い便の形成を予防し、あるいは硬くなってしまった便を軟らかくするには、大腸内の腸内環境を改善することが最も重要となります。ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌は、硬くなった便を軟らかくし、また硬い便の形成を抑制する効果に優れています。とはいえ、善玉菌の経口摂取は、大腸に到達するまでの間に死滅してしまいますので、大腸内の腸内環境を改善することができません。他方、イヌリン水溶性食物繊維は、胃酸や胃腸内の消化酵素では分解されずに、大腸に到達することができます。人の大腸には、善玉菌が生息していますので、その生息している善玉菌を増やした方が、安定した最良の腸内環境を維持することができます。このように、イヌリン水溶性食物繊維は、便秘の予防と改善の双方に有効な食品成分であるといえます。便秘対策として、小児、妊婦、授乳婦、高齢者あるいは基礎疾患のある患者さんにも適用することができるところに、イヌリン水溶性食物繊維の特徴があるといえます。イヌリン水溶性食物繊維は、ゴボウ、アスパラ、タマネギ、ニンニクなどの野菜類や根菜類に含まれていますが、その含有量は非常に少ないです。しかし、今ではスティムフローラのように、極めて高純度のイヌリン水溶性食物繊維健康補助食品として市販されていますので、このような健康補助食品を便秘の予防やその改善に活用するのも有用です。

 便秘は、生活の質(QOL)を著しく低下させます。また、便秘を放置しますと腸閉塞を生じさせ、生命に危険が及びます。さらに、便秘は、潰瘍性大腸炎クローン病、大腸ポリープ、大腸がん、アトピー性皮膚炎、ニキビ・吹出物などの皮膚疾患、免疫性疾患、膀胱炎・尿路感染症等の疾病の原因となり、またそれらの疾病の悪化要因ともなります。積極的に、便秘を予防し、あるいは改善することが、健康につながります。

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水溶性食物繊維「スティムフローラ」

根菜類に含まれる貴重な天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維は、腸内環境を改善し、自然な排便を促します。排便で苦痛を伴う方、お通じが毎日ない方、宿便気味の方、便が硬く排便が困難な方など、便の排泄にトラブルを抱えている方に、とても有用な天然成分です。スティムフローラは、この機能性の高い水溶性食物繊維を高純度(99%以上)に精製し、飲みやすいよう粒にした健康補助食品です。不純物を全く含まないので、病気で食事制限をしている方にも最適です。市販の食物繊維とは異なり、水に溶かさず、そのままお召し上がりいただけます。快適な、毎日のお通じのために!

http://www.stimflora.jp/