便秘の医学・その治療と予防

便秘は、家族や友人にも言えない症状です。便秘は、特に女性や高齢者に多くみられる症状ですが、便秘のことよく知らない人が多いです。そこで、さまざまな状況で生じる便秘についてお話します。

パーキンソン病に伴う便秘

 パーキンソン病は、欧米では古くから知られていた病気で、近年、高齢化に伴って日本においても患者数の増加が顕著な神経変性疾患の1つです。パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで発症頻度の高い脳神経系疾患です。パーキンソン病は、脳の中の神経に異常が起こることにより発病し、さまざまな症状を呈します。特に、発症頻度が高い症状として便秘があります。パーキンソン病患者さんの約90%に便秘がみられています。パーキンソン病の便秘は、その病気による自律神経障害が原因となって現れます。パーキンソン病では、腸管の運動を促進する自律神経系が障害を受けているために、腸管運動が抑制されてしまい、その結果、便秘が生じます。また、パーキンソン病の治療には、L-ドーパや抗コリン剤などの治療薬が用いられますが、これらの薬物治療によっても副作用としての便秘が生じます。このように、パーキンソン病に伴う便秘は、原疾患とそれに対する薬物治療の双方が原因となります。パーキンソン病は、難病指定されている病気ですが、パーキンソン病で生じる便秘はとても深刻なものであり、原疾患の治療と合わせて、その対策も重要となります。パーキンソン病の便秘対策に、刺激性下剤である便秘薬及び酸化マグネシウムの使用は有効ではないとされています。パーキンソン病は長期にわたる病気ですので、長期にわたり使用することのできる便秘対策が求められます。また、パーキンソン病の便秘に特徴的なのは、硬い便となってしまい、その結果、排便困難となり便秘が生じることです。従って、長期に使用可能であり、かつ硬くなった便を軟らかくすることができる便秘対策が求められます。最近の研究によれば、その両者に有効なのは、天然素材であるイヌリン水溶性食物繊維であるとの報告がみられます。ここでは、パーキンソン病に伴う便秘についてお話します。

パーキンソン病とは

  ヒトの脳は、大脳、小脳、脳幹の3つに分類されます。そのうち、パーキンソン病は、脳幹に分類される中脳の中の「黒質」とよばれる部分と、大脳の「大脳基底核」とよばれるところにある「線条体」という部分に、異常が生じて発症することが明らかとなっています。脳組織は、神経細胞という細胞が集団で結合した組織体です。脳は、脳神経細胞で構成される臓器です。各脳神経細胞は、独立した細胞なのですが、その細胞と細胞との間では、さまざまな外的あるいは内的情報に対して、協調的に連動し一種の情報伝達を行っています。これにより、体全体の生命体としての維持を保ち、生命を持続させる働きを担うことになります。各神経細胞の間のコミュニケーションは、ドパミンセロトニンアセチルコリンといった化学成分によって行われています。これらの化学成分によって、個々独立した各神経細胞に連携性や連帯性が生じ、脳という1つの臓器が形成されることになります。上記の神経細胞のコミュニケーションにおける化学的媒体は神経伝達物質とよばれます。

 パーキンソン病では、黒質部位に異常が生じ、その脳部位の正常な神経細胞が減少します。そのため、黒質部位の神経細胞で生成される神経伝達物質であるドパミンの産生量が低下し、黒質から線条体に向かう神経情報伝達が遮断されることになります。これにより、さまざまなパーキンソン病特有の症状が現れます。脳の黒質で生成するドパミンの量が、正常の人の20%以下まで低下しますと、パーキンソン病の症状が現れます。

パーキンソン病の疫学

  パーキンソン病は、平成27年1月の時点で、厚生労働省において難病に指定された病気です。本邦における有病率は、人口10万人あたり100~150人と推定されています。日本では、約10~15万人のパーキンソン病患者さんがいることとなります。パーキンソン病の発症年齢は、50~65歳に多くみられますが、高齢になるほど発病率が増加する傾向があります。

 パーキンソン病の中には、40歳以下で発症することがあり、稀に10代でも発症することが知られています。これら若くして発症したパーキンソン病を、若年性パーキンソン病といいます。若年性パーキンソン病の患者さんには、血縁者の人にもパーキンソン病を発症している場合が多いために、若年性パーキンソン病は家族性パーキンソン病ともよばれます。家族性パーキンソン病は、遺伝的素因で発症すると考えられています。 

パーキンソン病の症状

  パーキンソン病の症状はさまざまですが、大きく2つに区分されます。1つは、運動障害性症状であり、他の1つは、非運動性障害です。運動障害性の症状としては、手足が振るえる(静止時振戦、しんせん)、動作・動きが遅くなる(無動)、筋肉がこわばって硬くなる(筋固縮)、体のバランスが悪くなる(姿勢反射障害、転びやすくなる)、といった症状がみられます。静止時振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害の4つの症状は、パーキンソン病の発症初期からみられる特徴的な運動性症状となります。この運動性症状により、顔の表情の乏しさ(喜怒哀楽の表情がない)、小声(大きな声での表現がない)、小書字(紙に文字を書くと小さな文字で書く)、屈曲姿勢(前かがみの姿勢で、胸を張って立つことができない)、小股・突進歩行(歩く時の歩幅が狭く、ちょこちょこと歩く)、といった症状が現れ、身近な人にもその症状を認識することができます。運動性症状のうち、無動があり、なおかつ静止時振戦か筋固縮がある場合に、パーキンソン病が疑われることとなります。

 パーキンソン病の非運動性症状には、自律神経症状、認知障害、嗅覚障害、睡眠障害、精神症状、疲労や疼痛、体重減少などがあります。自律神経症状には、便秘、頻尿、起立性低血圧(立ちくらみ)、食事性低血圧(食後のめまいや失神)、発汗、むくみ、冷え性、性機能障害などがあります。認知障害には、遂行機能障害(いくつかの手順を踏む行動が計画できなくなる)や物忘れがひどいなどの認知症症状などがあります。嗅覚障害ではにおいを感じなくなります。睡眠障害では、眠ることができない不眠や日中の眠気が顕著となります。精神症状には、うつ、不安、アパシー(身の回りのことへの関心がうすれてしまったり、顔を洗う、着替える、といったことをする気力がなくなる状態をいいます)、幻覚、錯覚、妄想などがあります。また、疲れやすい、肩や腰の痛み、手足の筋肉痛、しびれ、体重減少が生じることがあります。これらの非運動性症状のうち、もっとも多くみられる症状は、便秘及び頻尿をはじめとした自律神経症状です。特に、便秘はパーキンソン病の90%にみられる発症頻度の高い症状です。自律神経は、排便機能として重要な腸管運動をコントロールしていますが、パーキンソン病の発病により、その自律神経の機能が乱れてしまい、便秘が生じます。パーキンソン病で便秘が多くみられる理由の1つは、このようなパーキンソン病原疾患の特質によるものです。

 家族性のパーキンソン病である若年性パーキンソン病では、高齢者で発症するパーキンソン病とは異なる特徴があります。1つは、病勢の進行がとてもゆっくりしています。2つ目は、パーキンソン病治療薬の効果が長時間持続します。3つ目は、表情が乏しく、動作がゆっくりとした寡動が主な症状であり、手足の振るえである振戦の症状が少ないです。4つ目は、前のめりのまま歩き、歩くスピードの調整ができずに突進してしまう姿勢反射障害の症状はあっても軽度であり、転ぶことは少ないです。

パーキンソン病の治療法

  パーキンソン病の治療法には、薬物治療、外科治療及び理学療法リハビリテーション)の3つの種類がありますが、治療の中心は薬物治療となります。薬物治療によって、パーキンソン病の諸症状を抑えることができます。薬物治療の基本となる薬剤は、L-ドパ(レボドバ)とよばれる薬剤とドパミンアゴニストに属する薬剤です。いずれも内服薬です。パーキンソン病では、脳内のドパミンという神経伝達物質が欠乏しています。そこで、薬物治療では、不足しているドパミンを補給することを治療の目的としています。L-ドパ製剤(ドパゾール、ドパストン)は、服用後、脳内でドパミンに変化し、内因性ドパミンと全く同じ働きを行います。ドパミンアゴニストは、化学構造上、ドパミンそのものとは異なりますが、神経細胞に対して、ドパミンと同じ働きがあります。アマンタジン(シンメトレル)、タリペキソール(ドミン)、プラミペキソール(ピーシフロール、ミラペックス)、ロピニロール(レキップ)、ロチゴチン(ニュープロパッチ)、アポモルヒネ(アポカイン)、カベルゴリン(カバサール)、ペルコリド(ペルマックス)、プロモクリプチン(パーロデル)などの薬剤があります。

パーキンソン病に伴う便秘・臨床的問題点

  L-ドパやドパミンアゴニストは、パーキンソン病の諸症状を改善させますので、パーキンソン病の治療において必要不可欠な薬剤といえます。しかし、これらの薬剤には、腸管運動を抑制する作用もあり、これにより重度の便秘が副作用として生じます。パーキンソン病では、原疾患を起因とした自律神経障害による便秘と薬物治療による副作用としての便秘が生じることになります。このように、パーキンソン病では、病気と治療の2つの側面で便秘が生じることとなります。しかも、このようなパーキンソン病の便秘においては、通常の便秘薬による下剤での治療では十分ではなく、難治性の便秘となり、それにより腸閉塞(イレウス)の状態になる危険性があります。このような状態が続きますと、栄養状態が悪化し、体重も急激に減少します。パーキンソン病で便秘になりますと、L-ドパなどの治療において、薬物の腸管からの吸収が遅延し、パーキンソン病の薬物治療にも影響することが報告されています。パーキンソン病は、長期にわたる病気です。便秘による栄養障害と便秘による薬物治療に対する影響が、パーキンソン病の治療上の大きな問題となっています。

パーキンソン病の便秘対策

  パーキンソン病の便秘治療に、通常の刺激性下剤である便秘薬は有効ではございません。パーキンソン病は、長期にわたる病気ですので、便秘が生じたその都度、刺激性下剤である便秘薬を用いますと、その反復使用によって、便秘薬の効力が失われることとなります。そうなりますと、もはや、刺激性下剤の便秘薬で便秘を改善することができなくなってしまいます。従って、パーキンソン病の便秘治療に、このような便秘薬の使用は最適ではないといえます。

 酸化マグネシウムは、非刺激性の便秘薬で、便の量を増やすことによって排便を促します。パーキンソン病による便秘は、腸管運動の抑制によって引き起こされます。従って、酸化マグネシウムの服用で便の量が増えたとしても、その便を肛門の方へ押しやる力が弱くなっている状況においては便秘改善効果は期待できません。むしろ、排泄されない便が大腸内に貯留してしまう危険性があります。また、酸化マグネシウムの服用で高マグネシウム血症が発症し、死亡したケースが厚生労働省から報告されています。パーキンソン病のように長期にわたる病気では、酸化マグネシウムの便秘対策としての使用は適していないといえます。なぜならば、酸化マグネシウムの長期使用は、高マグネシウム血症の発症リスクが高まるためです。

 このように、長期にわたる便秘に対する対策として、刺激性下剤である便秘薬や非刺激性便秘薬である酸化マグネシウムによる治療は最適ではないといえます。長期に使用しても、便秘改善効果が減弱せず、また安全性の高い便秘対策が、パーキンソン病の便秘治療に求められます。

 近年、便秘薬では効果が期待できない慢性便秘の改善に、イヌリン食物繊維という水溶性食物繊維が注目されています。イヌリン水溶性食物繊維は、ゴボウ、玉ねぎ、アスパラ、ニンニクなどの根菜類や野菜類に含まれる天然成分です。便秘に対するイヌリン水溶性食物繊維の効果は非常に高いです。刺激性下剤である便秘薬とは異なり、腹痛を伴うことなく「自然な排便」として便秘が解消されるところにその特徴があります。イヌリン水溶性食物繊維は、大腸内に生息するビフィズス菌酪酸菌、乳酸菌などの善玉菌の特異的な栄養素となり、それら善玉菌を増やす効果に優れた食品成分です。オリゴ糖とは異なり、大腸菌などの悪玉菌の栄養源にはならないので、速やかに腸内環境は改善されます。腸内の善玉菌が増えますと、パーキンソン病でみられるような硬い便は軟らかくなり、自然な排便が促進されます。イヌリン水溶性食物繊維は、急性便秘及び慢性便秘のいずれに対しても効果的です。パーキンソン病の慢性便秘にも有効であるとの報告もみられます。このようにイヌリン水溶性食物繊維は、便秘にとても有用な天然成分であるのですが、根菜類や野菜類に含まれる含有量が非常に少ないという欠点があります。しかし、今ではスティムフローラのように、極めて高純度(99%以上)なイヌリン水溶性食物繊維が、健康補助食品として市販されています。パーキンソン病の便秘対策として、このような天然成分を利用することも、とても有用な対策となります。

 パーキンソン病は、ゆっくりと進展する病気です。長い病期となりますが、病気とうまく付き合っていくことが大切です。現代において、パーキンソン病の諸症状は、薬物治療で抑えることができます。また、パーキンソン病とその治療で生じる便秘も、天然成分であるイヌリン水溶性食物繊維を用いれば、自然な排便となって、生活の質を向上させることができます。遺伝的素因で発症する若年性パーキンソン病にも有用です。パーキンソン病は難病であるといわれていますが、薬物療法と的確な便秘対策を積極的に取り入れることにより、健康な人と同じ生活を送ることができます。

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水溶性食物繊維「スティムフローラ」

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